ステンレスはサビに強く耐久性に優れる反面、切削加工が難しい「難削材」として知られています。本記事では、ステンレスの加工が難しい理由や種類ごとの特徴、コストを抑えて適切に加工するための設計ポイントを解説します。
ステンレス鋼は、一般的な炭素鋼などと比較して熱伝導率が低い傾向にあります。切削加工の際には摩擦によって高温の熱が発生しますが、素材自体に熱が逃げにくいため、工具や工作物に熱が蓄積しやすいのが特徴です。その結果、工具への熱負荷が大きくなり、刃先の欠損や摩耗を早める原因となります。熱によるダメージは加工精度の低下にも直結するため、適切な温度管理を行わないと安定した生産を続けることが困難になりかねません。
ステンレス鋼、とくにオーステナイト系ステンレスは延性や靭性が高く、切りくずが長くつながりやすい特性を持っています。これにより、切削中に発生する切りくずが細かく分断されず、工具や加工物に絡みつくトラブルを招くケースも少なくありません。さらに切削中の摩擦や圧力によって、被削材が工具の刃先に凝着する「溶着(凝着)」も発生しやすい点に注意が必要です。これらが刃の欠けや加工面の仕上がり不良を引き起こす要因となります。
ステンレスの中でもオーステナイト系は、とくに加工硬化を起こしやすい素材です。切削加工による塑性変形などの影響で、加工面近傍の硬さが上昇することがあります。この加工硬化した層を再び工具で削ろうとすると、工具への負荷が増大し、摩耗や欠損につながる可能性が高まります。これを防ぐためには、工具を被削材に擦らせるような加工を避け、適切な切込みや送りなどを設定して硬化層を再切削しないような工夫が求められるポイントです。
ステンレスの中でも広く流通しており、日用品から産業機械までさまざまな用途に使われているのがオーステナイト系です。代表的な鋼種としてSUS304があり、モリブデン(Mo)を含むことで塩化物環境などに対する耐食性をさらに高めたSUS316なども知られています。サビに強く優れた強度を持つ一方で、粘り気が強く加工硬化も起こしやすい特徴があるため、切削においては難易度が高いグループに分類されます。
加工の難しさを緩和するために、成分を調整して削りやすく改良された快削ステンレスという種類も存在します。代表的な鋼種であるSUS303は、硫黄(S)などを添加することで切削性を高めており、SUS304などと比べて加工時の負担を軽減できるのが利点です。ただし、削りやすさを付与している反面、SUS304と比較すると耐食性や溶接性の面で不利になる場合があります。そのため、使用環境や用途に応じた慎重な選択が欠かせません。
オーステナイト系以外の代表的な種類として、熱処理によって高い硬度を得られるマルテンサイト系や、磁性を持ち比較的安価なフェライト系があります。マルテンサイト系のSUS410やSUS420などは、刃物など強い耐摩耗性が求められる部品に採用されることが多い鋼種です。フェライト系のSUS430などは、厨房機器や自動車部品などに使われます。鋼種や熱処理の状態によって切削性は大きく変わるため、それぞれの特性を把握して加工に臨むことが大切です。
難削材であるステンレスを精度良く削り出すためには、工具選びが加工の成否を分ける重要な要素となります。加工条件によって最適な工具は異なりますが、一般的には耐熱性や耐摩耗性に優れた超硬合金製の工具を使用します。さらに、工具の表面に特殊なコーティングを施したものを採用することで、熱や凝着から刃先を保護する効果が期待できるでしょう。鋼種や加工方法に合わせて、適した材質や形状の刃物を選定する見識が求められます。
優れた工具を用意しても、機械を動かす際の設定値が不適切であれば品質は安定しません。ステンレスの加工においては、切削速度や送り、切込みを適切に設定し、工具を被削材に擦らせるような加工を避けることが重要です。切削速度を下げれば必ずしも良い結果になるとは限らないため、工具メーカーが推奨する条件などを基準に総合的なバランスを調整する必要があります。これには熟練の技術と豊富な経験が問われることになります。
ステンレス切削において発生する切削熱や工具への負荷を抑えるためには、クーラント(切削油)による適切な冷却と潤滑が重要になります。とくに水溶性切削油は冷却性に優れているため、加工条件や使用する工具に応じて選択されることが多いです。加工方法や機械設備、部品の形状によってクーラントの種類や供給方法は異なりますが、加工領域へ適切に供給することで溶着の防止や切りくずの排出をスムーズにする効果を発揮します。
ステンレス部品の外注費用を適正に抑えるためには、設計段階での工夫がカギを握ります。必要以上に厳しい公差や、高い表面粗さ精度を要求すると、測定や再加工のリスクが高まり、結果として加工コストに影響する可能性があります。本当に必要な機能や精度を見極め、オーバースペックにならないよう図面の指示を緩和することで、加工コストを抑えられる場合があります。自社の要件を改めて見直すことがコストダウンの第一歩となります。
切削加工は刃物を回転させて削るという物理的な制約があるため、複雑すぎる形状は加工費を引き上げる要因になり得ます。とくにステンレスのような加工難易度の高い素材で、刃物が届きにくい深い穴や、内側に丸みのない直角(ピン角)を設けようとすると、特殊な工具や追加の工程が必要になる場合があります。可能な限り角に丸みを持たせるなど、機械加工がしやすいシンプルな形状に変更することで、費用を抑えやすくなるでしょう。
部品が使われる環境や目的に合わせて、適切なステンレス鋼種を選ぶこともコスト最適化に有効です。たとえば、屋内で使用しそこまで高い耐食性を求めない部品であれば、用途上問題がないか確認したうえでSUS303などの快削ステンレスを検討してみてください。これにより加工性が高まり、結果として加工コストを抑えられる場合があります。材質の選定に迷った場合は、設計の初期段階で専門業者からアドバイスをもらうことも良い方法です。
ステンレスはサビに強く耐久性に優れる反面、切削熱が逃げにくく加工硬化を起こしやすいといった注意点が存在します。そのため、適切な工具の選定や条件設定、クーラントの活用といった確かな技術がなければ、精度の高い部品を作ることは困難です。コストを抑えつつ品質の高い部品を調達するためには、加工の難しさを理解したうえで、過剰な設計を見直して加工しやすい形状や材質を選ぶことが大切になります。
切削加工会社選びの手助けをする当サイト「切削アンサー」では、他にも切削加工の基本知識をまとめています。併せてご覧ください。
切削加工を行う会社は多くありますが、いざ問い合わせると特定の要望に対応できなかったり、不良品がでてコストがかさんだりすることも…。 当サイトを読めば、もう断られない切削加工会社が1分で見つかります。
依頼者の事情や加工品によって異なる、様々な要望に応えてくれる切削加工会社を紹介します。
なお、ここで紹介する会社は、信頼できる加工会社を選ぶ際に大前提として押さえておきたい、下記2つの規格を保有する会社の中から選定しています。
・品質担保の観点から、国際的な品質マネジメント規格「ISO9001」
・信用性の観点から、国際的な環境マネジメント規格「ISO14001」



※選定基準:2024年2月28日にGoogleにて「切削加工」「研削加工」と検索した際に表示される切削加工・研削加工に対応する会社123社を調査しました。(切削加工を依頼した際に、素材や精度により研削加工が必要になるケースもあることから、「研削加工」も含めて調査しています。)その中でも、ISO9001及びISO14001を取得する会社の中から、下記の基準でそれぞれ選定しています。
・守谷刃物研究所…難削材の加工に求められる切削加工・熱処理・研削加工を自社一貫で行う会社の中でも、難削材に対応した加工事例掲載が35件と最も多く(2024年3月調査時点)、難削材が使われやすい半導体製造装置や医療装置を得意としていると判断。
・キュリアス精機…ひと月あたりの生産可能個数が100万個以上と最も多く(2024年3月調査時点)、大量生産が求められる自動車部品の加工を得意としていると判断。
・プラスチック加工興和…樹脂の加工に対応する会社の中で、唯一樹脂の加工を専門とする会社と公式HPに記載されているため、プラスチック製品の加工を得意としていると判断。